米国株 -『正しいものは美しい』

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3/13【番外編】FRBの金利引き上げで、銀行預金が溶けてなくなる...

 今、米国政府と米連邦準備制度理事会(FRB)は、「シリコンバレー銀行が破綻した余波が自分達に降り掛かって来ない事」を強く望んでいることでしょう。
 シリコンバレー銀行が破綻した主因は、公開されているものとして「大口預金者(VC、法人)の預金引き出しによって、運営資金が枯渇した」というものです。しかし、何故、大口預金者はこの時期に預け入れている資金を強引に引き出したのでしょうか? 
 それは、同銀行の資産内容を覗き見ると、概ね半分以上が「債券ポートフォリオ」で構成されていたため、この一年の金利引き上げで「損失を被っていた」ことにあります。


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シリコンバレー銀行の総資産は、約2120億ドル(約28兆円)...

 総資産なので、現預金・債券類・不動産などを丸々含みますから、あくまで参考値です。この内、半分以上が「債券ポートフォリオ」となっているのです。次の米国10年物債券チャート(直近2年間)で表わすと、見事に「利率が上昇(金利引き上げ)」しているのが判ります。

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 これを債券価格チャート(直近2年間)で表わすと、見事に上記利率チャートと反比例(売買時の価格下落)しています。


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シリコンバレー銀行の決算内容、時価会計なら大幅な債務超過へ・・・

 上場企業は、3カ月ごとに会社決算を広く公表しなければなりません。これは、投資家保護の絶対条件なのです。情報公開が進んでいる米国では、価格変動がある保有債券類を現状価格で査定(値付け)する「時価会計」を長らく採用しいますが、リーマンショック以降、この原則が曖昧になっていて、購入時の価格で査定し続ける「簿価会計」を許容していることがあります。この線引きはよく判りません。

少なくとも、秘密裏の「時価会計」決算書が存在する...

 シリコンバレー銀行が「時価会計」で決算を行っているなら、よしんば「簿価会計」であっても、秘密裏に「時価会計」決算書を作成しているなら、『概ね半分以上が「債券ポートフォリオ」で構成されて』いるので、尋常ではない企業決算内容(債務超過、赤字決算)となっていたことでしょう。更に、FRBは『これからも、金利を引き上げ続ける。』と高らかに議会でも宣言しているのですから・・・。

あなたが、ベンチャーキャピタル(VC)の経理責任者なら・・・

 シリコンバレー銀行がベンチャーキャピタル(VC)と二人三脚で業績を向上させて来たことは、いままで述べているとおりです。
 シリコンバレー銀行は、VCから大量の資金を預金として受け入れ、VCが後押しするスタートアップ企業のIPOに手を貸す。融資・新株発行、預金の受け入れ・運転資金の貸し付けを行い、この実績はスタートアップ企業の諸々44%近くの高率となっていた。まさに、どっぷりと浸かっている状況だったというものです。

数クリックの指作業で、他行へ資金を移す...

 このような状況下で、秘密裏に作成されているであろう直近の「時価会計」決算書をあなたが手に入れたなら、「これは典型的な銀行取り付け騒ぎであり、それが始まると最後の1人になりたくはないものだ。」と考えて、イの一番に預入資金を他行へ移すことを行うでしょう。会計責任者なら至極当然な行為、判断です。簡単に、シリコンバレー銀行の専用WEBサイトから、数クリックで行える行為だからです。

金利引き上げ時に『脇が甘かった』に尽きる?

 こういっちゃ元も子もないのですが、博士号を取得した「ハーバード大卒のバリバリの経営者」でさえ、「インフレ期の経済を熟知していなかったので、市中金利が引き上がるデメリットを軽く考え過ぎていた」となります。世間で言われるところの『経営者として、脇が甘かった...』に尽きると非難されます。
 元本保証の債券類で預入預金を担保していたことは、バンカーとして許容範囲です。しかし、VCの預金引き上げに際して、想定を超える要求が舞い込み、保有する債券類が期日前の途中換金の際、「債券類は時価額で売買されてしまう」ことを軽視し過ぎていたのが致命傷でした。『簿価で債券類を保有していれば「凪さ状態」でも、時価に洗い直すと「嵐の真っただ中」だった』...。不運が直撃したようなものです。

国策である米国債保有で損失! しかし、これが非難されるべきなのか?

 今回の騒動、米国民並びに一般の方々の根底にあるのは、次のような一文でしょう。
 「米国民の総意であり、国策である米国債を保有していて経営破綻するなど本来あってはならない。追い込んだのは誰だ? 経営者として無能呼ばわりまでされて、方々から非難されるべきものなのか?」先に仕掛けたのは一体誰だ!!

次回、米連邦公開市場委員会(FOMC)は21日-22日...

 長年のバンカー生活でも、想定し切れていなかったFRBの金利引き上げが、シリコンバレー銀行を押しつぶしたことは間違いないことでしょう。これで、一般預金者の懐具合が傷つけば、非難の矛先はFRB、米国民主党、バイデン政権へ向かうことも予測されます。次回の米連邦公開市場委員会(FOMC)は、3月21日-22日に予定されています。


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引き上げ幅を、0.25%で維持するのか否かに尽きる・・・

 前回のFOMC(1/31-2/1)では、0.25%の利上げを決めました。去年12月に続いて2回連続で利上げ幅を縮小したのです。しかし、2月の経済データが活発なインフレ状況を想定できるまで高くなっているので、今回は0.5%に引き上げ幅を戻す(案)が強くなっていました。

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シリコンバレー銀行の破綻の影響は?

 ここでシリコンバレー銀行の破綻です。破綻した主因が「FRBの急ぎ過ぎた、金利の大幅な引き上げにある」との論調が強くなって来ているので、FRB高官や政府関係者の思いは如何ほどでしょう?
 またまだ、日数もあるので引き上げ幅の結論は出ませんが、0.25%超の引き上げともなると、性根のすわった対応が求められることになります。

 米中堅銀行のシリコンバレー銀行(SVB)が経営破綻した問題で、イエレン米財務長官と米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長らは12日、同行への預金を全額保護するとの共同声明を出した。


 週明けの13日に全利用者が破綻前と同様に預金にアクセスできるようにする。一方、FRBは金融機関に米国債などを担保に最長1年の資金を貸し出す資金繰り支援制度を導入すると発表した。金融市場で信用不安が拡大しないよう万全の措置をとる。


 イエレン氏は、FRBと預金者保護を担う米連邦預金保険公社(FDIC)からの勧告を基に、バイデン米大統領と協議した結果、預金者を完全保護する形でSVBの破綻処理を完了させる措置を承認した。納税者負担が発生することはないとしている。FDICの預金保証は従来1口座ごとに25万ドル(約3300万円)までで、それを超える額は保護されていなかった。


 FRBの資金繰り支援制度は、金融機関が必要に応じて手元資金を潤沢に確保できる態勢を整える狙いがある。SVBは米国債など保有資産の価値が下落する中で顧客からの預金引き出し要求が相次ぎ、資金繰りに窮していた。

 SVBはカリフォルニア州に拠点を置く新興企業向け融資が中心の中堅銀行。2022年12月末時点の総資産は約2090億ドル、総預金は1754億ドル。銀行の破綻としては、リーマン・ショック時に破綻したワシントン・ミューチュアル以来の規模となる。(毎日新聞 2023/3/13)

編集後記

 嘗て、日本の上場企業は「簿価会計」が原則でした。平成初期バブルが途方もなく膨れ上がった要因は、『含み資産 = 魔法の杖』と呼ばれる「隠れ金山」のお陰です。例えば、土地持ち古参企業は、過去に土地が安い時代に購入した「簿価の低い広大な土地」を所有していて、これを時価に洗い直すと「10倍高い株価に化ける」とも云われたものです。電鉄系企業や不動産業、倉庫業を営む財閥系企業です。


 金融機関(主に都市銀行)に目を転じると、土地だけではなく、他社の優良株券を「安値の簿価会計」で多量に所有していた時代なので、これを「時価会計」へ洗い直すだけで「現株価が超安値」と映るのです。内外の投資家が殺到したのが判るでしょうか? 株バブルを主導したのは「銀行株」です。


 そして、米国からは「ドル安・円高」の強風が吹き荒れ、当時の大蔵省は、輸出不振の対抗策として「強烈な低金利政策、日本紙幣の大量発行、物価の押し下げ」で応えたのです。
 日本中が「70%が中流階級」を自認していた庶民に至るまで、大狂乱したのは【むべなるかな】です。しかし、魔法の杖を利用し尽くした今、日本には何も残っていない...。


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